「はい、チーズ！」

と言いわれたら、皆みなさん、どんなポーズをとりますか？

ピースサイン、しちゃいませんか？

でも、それって、なんでなん？

（なんでなん取材しゅざい班はん 大阪おおさか放送ほうそう局きょく 今村いまむら香織かおり 藤島ふじしま新しん也）

ピースサイン、しちゃいますよね

街まちの人ひとたちに声こえをかけて、写真しゃしんを撮とらせて頂いただくと…

やっぱりピースサイン、しますよね。

声こえをかけた59人にんのうち、47人にんがピースサインをしました。

実じつに8割わりです。

そこで聞きいてみました。

「なんでピースしたんですか？」

「え～！パッと思おもいつくのがピース」

「王道おうどう」「定番ていばん」

「写真しゃしんと言いえば、ピースかな」

みなさんも、確かくたる理由りゆうはわからないようです。

それでも思おもわずしてしまうピースサイン。

そもそも起源きげんはどこにあるのか、調しらべてみることにしました。

ピースサイン、起源きげんはどこに？

まず、訪たずねたのは大阪おおさか市立しりつ中央ちゅうおう図書館としょかん。

「写真しゃしん年鑑ねんかん」や「自治体じちたいの写真しゃしん史し」など、写真しゃしんがたくさん掲載けいさいされている本ほんを片っ端かたっぱしから見みていきます。

いつからピースサインをし始はじめたのか、その手てがかりがないかと考かんがえたのです。

が、手てがかりがまったく見みつかりません…

白黒しろくろ写真しゃしんの時代じだいは家族かぞくやグループでの写真しゃしんでも、特とくにピースサインはしていないのです。

直立ちょくりつ不動ふどう、笑顔えがおもないものも多おおい印象いんしょうです。

う～ん、困こまった。

そこで、司書ししょの方ほうに相談そうだんしてみると…

「ここにVサインがどういう使つかわれ方かたしてきたかってことが書かかれていて」

持もってきてくれたのは1991年ねんの『中央ちゅうおう公論こうろん』。文化ぶんか人類じんるい学者がくしゃ・野村のむら雅一まさいちさんの「身体しんたい伝承でんしょうノート」という連載れんさい記事きじです。

それによれば、中指なかゆびと人差し指ひとさしゆびを立たてるサインは、もともと第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅうに「Vサイン」としてヨーロッパで広ひろがったとのこと。

ナチスドイツへの勝利しょうり＝「Victory」（ビクトリー）を意味いみし、連合れんごう国こく側がわの連帯れんたいの印しるしとして広ひろがったそうです。

当時とうじのイギリスのチャーチル首相しゅしょうの写真しゃしんにも、確たしかに、このVサインをしているものが数多かずおおく残のこされていました。

このVサイン、1960年代ねんだいになると、ベトナム戦争せんそうに対にたいする反戦はんせん運動うんどうの中なかで、平和へいわを願ねがう「ピースサイン」としても使つかわれるようになります。

野村のむらさんによると、「アメリカのヒッピーや反戦はんせん運動うんどう家かたちが警察官けいさつかんに向むかって示しめしたのが始はじまりだという説せつが有力ゆうりょく」とのことでした。

これは、既存きそんの価値かち観かんに反発はんぱつする若者わかものたちが戦争せんそうへの勝利しょうりを意味いみする「Vサイン」を、あえて平和へいわを願ねがう「ピースサイン」として使つかったのではないか、と指摘してきする専門せんもん家かもいました。

ピースサインの起源きげんは見みえてきましたが、なぜ日本にっぽんでも広ひろがったのか。

ヒントを求もとめて、大手おおてカメラメーカー各社かくしゃに聞きいてみることに。

すると、ある社しゃから「確かくたることはわかりませんが、俳優はいゆうの井上いのうえ順じゅんさんがきっかけではないか」という有力ゆうりょく情報じょうほうが！

こうなったら直接ちょくせつ、確たしかめてみたい！

井上いのうえ順じゅんさん、実際じっさい、どうなんですか？

そこで、NHKの「ラジオ深夜しんや便びん」に出演しゅつえんする前まえの井上いのうえさんを直撃ちょくげきしました。

「日本にっぽんで広ひろめたのは順じゅんさんだという話はなしを聞ききました。実際じっさいのところどうなんですか？」

俳優はいゆう 井上いのうえ順じゅんさん

「話はなすとすごい長ながくて2年ねんくらいかかるかもわからない（笑えみ）。今いまから半はん世紀せいき前まえくらいかな、1970年ねん前後ぜんごに、アメリカにカメラの広告こうこくのロケに出でかけたんですよ。その時とき、ちょうどアメリカはベトナム戦争せんそう中ちゅうで、反戦はんせん運動うんどうのまっただ中ただなかだった訳わけですね。それで、会あうスタッフ、会あうスタッフが「順じゅん、ピース！」「ピース、順じゅん！」って言いうんですよ。「あれ、なんだろう？」と思おもって聞きいたら、「反戦はんせん運動うんどうでアメリカ人じんはみんなピースって言いうんだ」と。僕ぼくはすぐになじむ方ほうですから（笑えみ）、「あ、そうなんだ」となって、撮影さつえいが始はじまった時ときでアドリブでピースって入いれたんですよ。アドリブなんで遊あそびの感覚かんかくですね。ところが、撮影さつえいが終おわって日本にっぽんに戻もどって放送ほうそうを見みたら、ピースの写真しゃしんが使つかわれていて「えーえ-！」と思おもって」

井上いのうえ順じゅんさんがピースサインをしたという広告こうこく。

調しらべてみると、確たしかに1972年ねんのカメラの広告こうこくで使つかわれていました。

片手かたてでカメラを持もち、反対はんたいの手てでピースサイン。

にっこり笑顔えがおです。

俳優はいゆう 井上いのうえ順じゅんさん

「しばらくして街まちを歩あるいていたら、相手あいての方ほうが「ピース」って言いうんですよ、いきなり。それで、こっちも「ピース」なんてお返おかえししたりしていて、それが1人にんだけじゃなくて、どんどんどんどん日ひを増ますごとにピースと言いう方ほうが多おおくなって。だんだんだんだん世間せけんでも浸透しんとうしていったという感かんじでしたね」

写真しゃしん評論ひょうろん家かの鳥原とりはら学がくさんは日本にっぽんでピースサインが普及ふきゅうしたのは井上いのうえさんのピースサインの影響えいきょうが大おおきかったと指摘してきします。

写真しゃしん評論ひょうろん家か 鳥原とりはら学がくさん

「あのCMは相当そうとうインパクトが強つよくて、私わたしもまねをしましたし、遠足えんそくとか修学しゅうがく旅行りょこうになると、カメラマンの前まえでピースをしたことを覚おぼえています。ベトナム反戦はんせん運動うんどうという背景はいけいがあって、そのときに（井上いのうえ順じゅんさんの）ピース！という、かけ声かけごえがあって、それまでVサインと言いわれてたものが『ピースサインなんだ』とみんなが思おもって、それがカメラの広告こうこくと結むすびついて圧倒的あっとうてきにはやったのだと思おもいます」

NHKの過去かこの映像えいぞうを確認かくにんしてみても、確たしかに1970年代ねんだい頃ごろから日本にっぽんでもピースサインをする人ひとが増ふえている印象いんしょうでした。

俳優はいゆう 井上いのうえ順じゅんさん

「笑顔えがおってすごい大事だいじなものだし、笑顔えがおに一役ひとやく買かっているっていうこのピース、どんどんやっていただきたいなと。ピース！！」

広ひろがる、進化しんか形がたピース

今回こんかい、街まち中ちゅうで声こえを掛かけた人ひとたちのピースサイン。

よく見みると、井上いのうえさんのピースとは、ちょっと違ちがう感かんじがします。

ピースをした手てを頭あたまに乗のせた猫ねこ耳みみポーズ。

手てをひっくり返ひっくりかえして指先ゆびさきを下したに向むけたギャルピース。

さまざまなバリエーションが確認かくにんできました。

ギャル向むけの雑誌ざっし「egg」の編集へんしゅう長ちょうに聞きいてみると、ピースサインは進化しんかしているといいます。

雑誌ざっし「egg」編集へんしゅう長ちょう 大熊おおくま芹せり奈さん

「普通ふつうのピース、そのまま顔かおに近ちかづける（1）小しょう顔かおピース、それを裏返うらがえす（2）裏うらピース、そのまま下したに持もって行いく（3）あごピース、去年きょねん”爆はやり”した（4）ギャルピース。さまざまなメディアが出でてきて憧あこがれる対象たいしょうが非常ひじょうに増ふえたので、やっぱりそれだけ流行りゅうこうが生うまれるスピードも早はやいし数かずも多おおい」

憧あこがれの対象たいしょうを反映はんえいするという写真しゃしんのポーズだけに、ピースサイン以外いがいの人ひともいました。

多おおかったのは「ハート」（「ハートの中なかに入はいったよ！」という気持きもちを表あらわしていて、もともと両方りょうほうの手てでしていたポーズが、最近さいきんは片手かたてになっているそうです）。

アイドルやいわゆる「推おし」のポーズをまねたという人ひとも多おおくいました。

雑誌ざっし「egg」編集へんしゅう長ちょう 大熊おおくま芹せり奈さん

「一概いちがいに『このポーズはトレンドです』と、ひと言ひとことでは表あらわせなくて、みんながみんな、自分じぶんの魅力みりょく的てきだと思おもうポーズを、自分じぶんの一番いちばん盛もれてるポーズをするっていうのが今いまの子この感覚かんかくだと思おもいます」

ピースサインの進化しんかやポーズの多様たよう化かについて、再ふたたび井上いのうえ順じゅんさんに聞きいてみました。

俳優はいゆう 井上いのうえ順じゅんさん

「逆ぎゃくピースですか？そんなことやったら手てがつっちゃいますよ（笑えみ）。逆ぎゃくでも何なにでもいいですけど、とにかくいい感かんじで使つかってほしいなと言いうのが僕ぼくの願ねがいですね。最近さいきんは揉め事もめごととか悲かなしい話はなしが多おおいですが、だからこそ、相手あいての気持きもちを思おもうような世界せかいがどんどんどんどん広ひろがってほしいし、それにはやっぱり、こういう「ピース」と言いった時ときに口元くちもとがふっと明あかるくなって、笑顔えがおが向むこうに通つうじるというかな、そういう世界せかいになってくれることを祈いのっています」

日本にっぽんで独自どくじの進化しんかをしながら、私わたしたちにしみこんでいるピースサイン。

今後こんご、時代じだいとともにどう変化へんかしていくのか、楽たのしみです。

【番外ばんがい編へん】海外かいがいではピースはしない？

今回こんかい、街まちで取材しゅざいをする中なかで、外国がいこくからの観光かんこう客きゃくの方かたたちにも声こえをかけました。

「はい、チーズ！」といって写真しゃしんを撮とったのですが、、、

ピースサインをする人ひとは、ほとんどいませんでした。

ピースサインを裏返うらがえすと、相手あいてを侮辱ぶじょくする意味いみがある地域ちいきもあるということで、外国がいこくの方ほうは「肩かたを組くむ」、「笑顔えがおを見みせる」といった、比較的ひかくてきシンプルなポーズの人ひとが多おおかったです。

国くにによって写真しゃしんを撮とるときのポーズに違ちがいがあるという発見はっけんもありました。